Rawってなんですか?
近年、一眼レフのデジタルカメラの急激な性能向上と価格低下のため、アマチュアカメラマンにとって一眼レフのデジタルカメラが手の届きやすい存在になってきました。そうしたアマチュアカメラマンの方に「Rawで写してますか?」とたずねると、「Rawってなんですか?」と聞き返されることがよくあります。
Rawデータとは生データのことで、CCDやCMOSなどの撮像素子がとらえたデータそのもののことです。生データを直接扱うことによって得られるメリットは多分にありますが、問題はRawデータで撮影することよりも、それをどのようにして現像するかという作業の流れにあります。
せっかく一眼レフデジカメをお持ちでも、Rawデータを扱っていないのではもったいない限りです。今回は、Rawのワークフローをご存知でない方に、Bridge CS3とPhotoshop CS3でのRaw現像の流れをご紹介します。
Rawで撮影するメリットと問題点
ご年配で写真が趣味という方はたくさんいらっしゃいます。夫婦や写真仲間で旅行に出かけ、デジタルカメラで記念の場面を記録として残すというのも素敵な趣味ですから、デジタルカメラを片手にあちこち飛び回り、気軽にシャッターを押して欲しいものです。
写真が趣味である高齢のアマチュアカメラマンが、高機能で高額な一眼レフカメラや複数のレンズ等を装備しておられて、ユーザー数の多くを占めておられる現象は、特徴的な現象ではあります。
一方で、こうしたアマチュア・セミプロユーザーの方々が、せっかくの一眼レフデジタルカメラのメリットである「Rawデータでの撮影」を使っていない状況を目にすると、なんとももったいない感じがしてしまいます。
Rawデータで写すメリットは、撮像素子がとらえたそのもののデータから補正をスタートできることにあります。JPEGは既に圧縮が確定してしまっているファイル形式なので、JPEG形式の画像データをPhotoshopで補正すればするほど、見た目ではきれいになっているように見えても、階調(グラデーション)の劣化を招くなどの弊害がおこりやすくなります。Rawを開いた段階で、補正作業をおこなうことによって、この劣化が最小限に抑えられるのです。
しかし、Rawデータのままでは、多くの写真屋さんでは受け取ってくれず、一般のユーザーにデータとして渡そうとしても、先方にとって扱えないデータになってしまいます。
問題は、いかにして複数のRawデータを、必要としているファイル形式に変換するかというアプリケーションの操作にあるでしょう。Rawの実用化のためには、一度に大量のファイルを目的のファイル形式にするためのワークフローが必要になってきます。
今回は、Bridge CS3とPhotoshop CS3を使い、複数のRawデータを、一般ユーザー向けにJPEG形式で、sRGBのプロファイルを添付した状態に変換して渡すということを想定して、作業の流れをご説明します。
Adobe Bridge CS3での作業
デジタルカメラ側で撮影したRawデータを、Bridge CS3からプレビュー確認します。ご紹介する一連のワークフローでは、Photoshop CS3が必要になるのは、最終工程の必要なファイル形式を一括で生成する作業時のみで、重要な補正の作業はBridge CS3で完結することになります。
Bridge CS3から目的の画像のサムネイル表示選択し、command(Ctrl)+Rもしくは[ファイル]→[Camera Rawで開く]としてCamera Rawのダイアログボックスを表示します。 (control+クリック(右クリック)でコンテキストメニューを表示して選択して頂いても結構です)
Bridge CS3からは、基本補正のカテゴリに「白飛び軽減」「補助光」「明瞭度」「自然な彩度」のスライダが追加され、HSL/グレースケールのカテゴリに色相・彩度・輝度と、それぞれ細かい調整ができるようになったため、より感覚的にわかりやすく踏み込んだ補正操作ができるようになりました。
ホワイトバランス
ホワイトバランスが適切でないと、色かぶりした状態となります。色かぶりしている場合、RGBの値が一致しているグレイの箇所をホワイトバランスツールでクリックします。市販のグレイボードどを基準とする場合と、被写体の中にホワイトポイントを探して基準とする場合が想定されます。
↑ ホワイトバランスツール使用前。青色に片寄っていることがヒストグラムから確認できます。
↑ ホワイトバランスツール使用後。RGBのバランスが取れていることがヒストグラムから確認でき、色温度と色かぶり補正の数値が自動調整されていることがわかります。
撮影時にJPEGに確定されてしまったデータを、Photoshopから矯正する方法に比べて、生のデータ上で調整をおこなっているために、画像の劣化を最小限に抑えてのホワイトバランス調整が可能になります。
明るさとコントラスト
デジタルカメラで撮影した画像で生じやすいのが、ハイライトが飛んでしまい、シャドウが潰れてしまうことです。
図の中のヒストグラムの両端を見る限り。ハイライト・シャドウのどちらも飽和しているのがわかります。ヒストグラムの左上と右上にある三角のボタンをクリックすると、飽和している領域が色でプレビュー表示され確認しやすくなります。
JPEG撮影の場合は、この状態で確定されてしまいますから、その後の処理でPhotoshopを駆使しても、飽和した領域が改善されることはありません。しかし、Rawデータであれば、撮像素子が感知した情報を保持しているので、こうした飽和した箇所を救うことができます。
↑ 補正後の表示。飽和箇所の表示が消えています。
明るさとコントラスト系の補正手順は下記のとおりです(順番どおりでなくても構いません)。
- 露光量でハイライト
- 黒レベルでシャドウ
- 白とび軽減でハイライトの微調節
- 補助光でシャドウの微調節
- 明るさで全体の明るさ
- コントラストでコントラスト
特筆すべきなのは、CS3からの新機能である「白とび軽減」と「補助光」のスライダです。Photoshop CSから「シャドウハイライト」という補正コマンドが登場し(BridgeではなくPhotoshopにおいて)、コントラストが強すぎる画像のシャドウとハイライトの調整ができるようになりましたが、CS3からはCamera Rawのダイアログ上で、同様のハイライトとシャドウの微調整が可能になったのです。これにより、踏み込んだ補正作業でも、Camera Rawのダイアログで完結することができるようになりました。
彩度調整
Bridge CS3から、彩度系の調整がより細やかにおこなえるようになりました。新機能の「明瞭度」ではコントラストのスライダでは調整できない明瞭感の調整を、「自然な彩度」では一定の制限の中でバランスと整えながらサイド調整を、「彩度」では無条件に全体の彩度を調節できます。むずかしく考えず、感覚的に操作して結果の良い方を使用すればよいでしょう。
さらに、CS3から「色調補正」のカテゴリが「HSL/グレースケール」の名称に変わり、「色調」「彩度」「輝度」のカテゴリに区分されて、それぞれに調整ができるようになりました。人肌などの繊細な彩度調整が必要な場合などに、より細やかな調整が可能になりました。
切抜きと修復
切り抜きツールのアイコンをプレス(ずっと押すこと)していると表示される項目から「カスタム」を選択して、必要な縦横比率を入力し、比率を指定して切り抜き(トリミング)をします。
画像内にある不要なゴミをスポット修復ツールで修正します。これもCS3からの機能で、「Camera Rawのダイアログボックスで補正作業を完結する」のために重要な役割を果たします。
最後に、ワークフローオプションを表示して、カラースペースとビット数、必要なピクセルサイズと解像度を指定してOKボタンを押し、さらに完了ボタンを押して補正作業完了です。
設定のコピー&ペースト
このように設定した補正情報は、Rawデータと同じ階層に「XMPデータ」としてファイル保存されます。
すべてのRaw画像に対して、個々に補正作業をおこなうのではなく、同じような状況下で撮影された画像に対して、できる限り設定をコピー&ペーストして作業の効率化を考えるとよいでしょう。
Bridge CS3での補正設定のコピーは、[編集]→[設定を作成]→[Camera Rawをコピー]の方法と、Control+クリック(右クリック)からたどる方法がありますが、command(Ctrl)+Option(Alt)+Cのショートカットを利用した方が効率が上がるでしょう。
ペーストも同様に、[編集]→[設定を作成]→[Camera Rawをペースト]の方法と、Control+クリック(右クリック)からたどる方法がありますが、こちらもcommand(Ctrl)+Option(Alt)+Vのショートカットを活用して作業効率を上げてください。
こうした一連の作業を、コピー&ペーストを積極的に活用しながら、Bridge CS3で済ませてしまい、撮影したRawデータに対応したXMPファイルを作成します。
↑ ペースト後の表示状態です。この場合、補正の情報のみのペーストで、切り抜きやゴミ取り作業は共有していないので、ペースト後、個々に切り抜きなどの作業をおこなう必要があります。サムネイルを見ると、補正のアイコンと切り抜きのアイコンが確認できます。
Photoshopのイメージプロセッサ
この段階でようやくPhotoshop CS3の登場です。
[ファイル]→[スクリプト]→[イメージプロセッサ]として、Rawファイルを一括でJPEGファイルに変換する自動処理をおこないます。
Rawデータのあるフォルダを指定して、さらに処理後のJPEGを送り込むフォルダを指定します。 画質はデフォルト値で5が指定されていますが、ここではJPEG保存時の最高値である12を指定しました。
Adobe RGBの方が色空間が広いのですが、受け渡した相手先が扱えないといけないので、「プロファイルをsRGBに変換」にチェックしておきました。
イメージプロセッサは、JPEGとPSDとTIFFを一括返還できる仕様になっていますが、EPSやPNGなど、他のファイル形式を指定する場合は、アクションを絡ませておこなうことになります。
なお、PhotoshopがRawデータを扱えるようになったのはPhotoshop CSからで、イメージプロセッサのコマンドはPhotoshop CS2からです(アクションで設定可能ですが)。
早川廣行のAdobe Photoshop CS3プロフェッショナル講座 基本編
私はフォトレタッチ関連の操作に関して、昔(Photoshop 4.0の頃)から電塾塾長の早川廣行さんの方法論に準拠させて頂いております。
今回のRawデータ現像のワークフローに関しても、早川廣行さんの 『早川廣行のAdobe Photoshop CS3プロフェッショナル講座 基本編』を参考にさせて頂きました。色管理(カラーマネジメント)のことも含めて、ご興味をもたれた方は ぜひ一読をおすすめいたします。
Rawデータというと、プロカメラマンが使っている、扱いのむずかしいファイルだと思っている人は多いのではないでしょうか? むしろ、アマチュアユーザーほどRaw現像の柔軟性を有効活用できるのではないかと私は考えます。
既にRawデータを扱っていらっしゃる方にとって、今回は当たり前の内容だったかもしれません。
Rawデータを扱いだすと、写真の面白みが違ってきます。Rawデータを扱い慣れていない方は、お試しください。
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