シンボルとインスタンスとテンプレート
Illustratorにおける「シンボル」の機能をたずねると「あのいっぱい増えるヤツね」と、返答するユーザーが多いのではないでしょうか?
シンボルとインスタンスの親子関係を機能として搭載したのは、Illustrator 10からです。
Illustrator 10からIllustrator CS3までの仕様では、シンボル系のツールを使用して、ドラッグ操作でランダムに増殖発生させるためにだけに、シンボルという機能があるように思われてしまうのではないかと感じていました。
一方で、Flashにはずっと以前からシンボルとインスタンスの親子関係があります。Flashでは、シンボルとインスタンスの親子関係なくして基本ムービーは成り立たちません(Flashにはドラッグ操作でインスタンスをランダムに増殖させるツールはありません)。
アドビシステムズとマクロメディアが統合し、共同で開発したIllustrator CS3から、ようやくシンボルとインスタンスの親子関係が、本来あるべき仕様になったといえるでしょう。
今回は、シンボルとインスタンス、そしてテンプレートによる作業の効率化について考えます。
シンボルの利点を活かす
オブジェクトをシンボルとインスタンスの親子関係にするメリットを考えてみましょう。
- 親(シンボル)が変われば、子(インスタンス)が変わる(自動更新)
- 子(インスタンス)が増えても、親(シンボル)のファイルサイズ以上増えない
シンボルの利点として上記の2点があげられるのですが、ファイルサイズを極力切り詰めるWebと異なり、DTP目的であれば、ファイルサイズに関してWebの作業ほど神経過敏にならなくてもよいかと考えます。 したがって、親が変われば子も変わるという利点を活かすことを考えるのが得策でしょう。
運用例として、ビジネス目的でインクジェットプリンタもしくはレーザープリンタによる出力を想定して、定型の規格とデザインを共有し、使用者によって肩書・名前・電話番号・メールアドレスといった内容が変更になる、名刺のコンテンツを機軸にシンボルのワークフローを考えてみました。
シンボル登録
元となる名刺サイズのオブジェクトを[シンボル]パネルにドラッグするか、登録したいオブジェクトを選択した状態で[シンボル]パネルの新規シンボルボタンをクリックして新規シンボルに登録します。
Illustrator CS2以前では、シンボル登録時にダイアログボックスが表示されずにシンボルが登録されました。また、元のオブジェクトはインスタンスにはならず、いったん元のオブジェクトを削除してシンボルパネルから再配置するなどしないと親子関係にはなりません。また、ダブルクリックによるシンボル編集ができず、使い勝手のよい仕様ではありませんでした。
Illustrator CS3からは、シンボル登録時にダイアログボックスが表示されるようになりました。その際、グラフィックで登録するのかムービークリップで登録するのかは、そのシンボルをFlashに継承する場合以外では使い分ける必要がないため、どちらを選択しても構いません。 シンボル登録時には、元のオブジェクトがそのままインスタンスとして親子関係になるように改良されています。
さらに、インスタンスをダブルクリックするとシンボルの編集モードになり、感覚的にシンボル編集を行えるようになりました。 これはFlashと同じ仕様なのです。Flashにおけるシンボルとインスタンスの親子関係の利点と円滑な操作性に慣れているユーザーであれば、Illustrator CS3のシンボル機能の改良を歓迎することでしょう。
シンボルセット
配置されたシンボルを、シンボルスプレーツールでドラッグすると、シンボルセットと呼ばれる独特なグループオブジェクトになります。
シンボルスプレーツールを使用すると、ランダム発生でシンボルが増殖し、配置されたインスタンスは、ダブルクリックでの編集ができなくなります。
上記の画像例の場合、右側の例のような花などを増殖させる描画操作において有効な機能ですが、今回の使用目的の場合は必要としない機能です(シンボルツール系が不要だといっているのではありません)。
シンボルによる共有ワークフロー
使用例として10面付けのレイアウトを作成します。
インスタンスのいずれかをダブルクリックして編集モードに入り、構成要素を編集した後、シンボル編集モード解除ボタンをクリックするなどしてシンボル編集モードを解除すれば、すべてのインスタンスが更新されます。
テンプレート
[ファイル]→[テンプレートとして保存]として、作成した面付けシートをテンプレート(雛形)として保存します。
テンプレートを使用するそれぞれのユーザーの情報を、あらかじめ入力しておき保存配布しておくことにより、円滑な共有ワークフローが構築できるでしょう。
[ファイル]→[テンプレートから新規]もしくは[ファイル]→[新規]のテンプレートボタンから、登録したテンプレートの新規台紙を作成します。
シンボルとテンプレートを活用した共有ワークフロー
今回は名刺を例にあげて、シンボル(親子関係)とテンプレート(雛形)による共有ワークフローを紹介しましたが、それがダイレクトメールであったり、各種定型封筒であっても有効です。
データを共有する構成メンバーが、新規テンプレートから必要な台紙を作成し、必要であればダブルクリックでシンボルを編集し、必要な枚数を各自が出力することにより、作業の共有、作業効率の向上がはかれるだけでなく、運用方法によっては経費削減にもつながります。
ダブルクリックでのシンボル編集という操作性の改善によって、使用者側がIllustratorの操作に精通していなくても編集作業がおこなえるようになりました。この改善点は共有ワークフローという観点から考えると、大変有益です。
シンボルとインスタンスの親子関係、テンプレートによる雛形、こうした共有操作機能を活用して、独自の新しいワークフローを構築してみてはいかがでしょうか。