組版に関する問題提起
昨日、NPO法人クリエイター育成協会さんのブログ記事『DTPデザインの基本「文字間隔」について』に横やり指摘が入り、最終的に記事を取り下げるという一件がありました。
- 当記事は一度掲載を取下げさせていただきます(元内容:DTPデザインの基本「文字間隔」について) | NPO法人クリエイター育成協会 公式ブログ
- はてなブックマーク - DTPデザインの基本「文字間隔」について
それを受けて、「Illustratorで和欧間の前後や句読点に続くアキを「なし」にするために、[アキを挿入]を「ベタ」にするのはバッド・ノウハウというより、間違った使い方です」というエントリーを書いていたんですけど、「いや、それもアリかも」っていう気がしてきました。
美的感覚はそれぞれ
主に広告系などの業界で「和欧間の前後や句読点に続くアキを“なし”」にして、ギューギュー詰めたいという要望(ニーズ)があり、次のようなバッドノウハウがまかり通っているらしいんです。
- [A][アキを挿入(左/上)]と[アキを挿入(右/下)]:「自動」から「ベタ」にする
- [B][文字組みアキ量設定]を「なし」にする
ちょっと組版をかじっている人は「いやいや、どっちもダメでしょう!!」と鼻で笑ってしまう方法ですけど、彼らが美しいとする組版を実現するために「文字組みアキ量設定」をいじるのは、ちょっと面倒...
というか、とりあえず、結果に近いものが[A]または[B]で実現できるならOK!っていうのは、仕事としてアリのような気がしてきました(だって、普通の人は「文字組みアキ量設定」なんかいじりたくないのが本音)。
そもそも、どうして[アキを挿入]を使ってはいけないの?っていうか、[アキを挿入]って何のための機能?
実は、[アキを挿入]については、以前、「職場でこんなノウハウが蔓延しているんですけど、どうやったら納得させられますかね?」という相談をいただいたことがあります。
それ以来、ずっと頭の片隅にあって、話題にも出すんですけど、詳しい人だと「いや、違うし...」と一笑に付されてしまいます。
あのバッチリ先生も、中黒や読点の右側を詰めるために使う、と解説されてたりしています...
DTP Transitでも、過去に[アキを挿入]について触れたことがあるのですが、細かいしくみはともかく、サクっといい感じになるようになってくれないと困る。
- アポストロフィの後のアキ - DTP Transit(Illustrator)
- アポストロフィの後のアキは、「段落パレット-文字組み:なし」で直そう - M.C.P.C.
- Illustrator上のアポストロフィーについて簡単に…… - なんでやねんDTP
かなり前から、ユーザーより株主ばかり見ているアドビに期待はできないんだけど、Illustratorの扱いがおかしいなら、直すようにもっと戦った方がいいんじゃないかな。熟練のノウハウで回避していたら、いつまでたっても組版を生業にしない人にはムリ。
ちなみに、[アキを挿入]については、敬愛する大石さん(なんでやねんDTP)の次の解説が非常に明快。
Illustratorの文字パネル「アキを挿入」、InDesignの「文字前(後)のアキ量」の設定は「文字組みアキ量設定」での設定値(=自動)を一時的に否定して設定したアキを確保する、と考えたらいい…そして「ベタ」選択肢に惑わされず「ベタ=アキなし」と理解しよう…
— なんでやねんDTP/おぢん (@works014) 2014, 1月 27
[アキを挿入]を「ベタ」にすることは、すなわち、「文字組みアキ量設定」での設定値を否定する、ということですが、言い換えれば「文字組みアキ量設定」(のデフォルト)が実現する結果がイヤな人が、[アキを挿入]を「ベタ」にする([A])または、「文字組みアキ量設定」を「なし」にする([B])のは、理に適っているといえば適っています。屁理屈だけど。
アプリケーションのデフォルト設定でカバーすべきでは?
組版を生業にしない人たちにとっては、「アプリケーションの正しい使い方を知る」よりも、「スピーディに、それらしく設定できること」が正義。
「間違っているよ〜」というだけでなく、具体的に、どうすればいいよ、とか、そもそも、そういうニーズがあれば、アプリケーションのデフォルト設定にそのようなものがあってもしかるべきだと思うんです。
Illustratorも25周年とかになっているわけですから、誰がやっても美しい組版がサクっと完成するようになっていていいんじゃないかと。「いやいや、それはケースバイケースだから」というなら、それぞれのバリエーションごとの代表的な設定を用意しておけばいい。あれもこれも設定しないといけない、って、実は異常な状況だと思う。
そもそも美しい組版とは?
そもそも美しい組版の揺れ幅が大きすぎるのも問題。出版社の文化とか、編集者/組版設計者のスキズキ(好み)など、「人生あれこれ」で片付けないで、もっと理詰めで、組版のあるべき姿について追求すべきだし、そして、それを啓蒙していくべき。
まとめ
若い世代の気持ちを代弁すると、こんな感じにまとめられると思います。
- 正しい使い方があるなら、その設定を配布して欲しい(アプリケーションに組み込んで欲しい)
- アプリケーションの挙動でサクっといかない問題があるなら、それを直すように働きかけて欲しい
- あるべき組版の姿があるなら、それを示して欲しい、そして広めて欲しい
なお、大石さんの設定されたIllustrator/InDesignの設定ファイルを「+DESIGNING」のサイトからダウンロードすることができます。
でも、設定ファイルだけ配布されていても、戸惑いますよね...Illustrator、InDesignの設定ファイルともに、ダウンロードすると詳細な解説が入っています。
まとめのまとめ
広い意味での「標準化」を考えたら、クダンの記事に対してちょっと違ったアプローチがあったと思うし、やっぱり「アプリケーションがアホすぎる」ことに気づいた方がいいと思う。
追記(2014年6月2日):
ジーコさんからコメントいただきました。
そもそもAdobeのアプリは、一部を除いてはプロ用のアプリだと言うことは忘れていませんか。近年になって、昔よりは廉価で利用できるようになったとはいえ。まぁ、極論しちゃいますけど、Illustratorは文字組みアプリじゃありません。
— ジーコ クシティガルバ (@Ksitigarbha) 2014, 6月 2
「まったく、その通り!」と思う自分もいるんですけど、こんな風に考えます。
- プロ向けといいつつ(IllustratorもInDesignも)実際、そうでない人がたくさん使っているのが現状
- 「Illustratorは文字組みアプリじゃない」に100%同意だけど、ここ日本では文字組みアプリとして、また、ページものアプリとして使われているのが実状
- 道を究めないと実現できないというのはなんか違う
- 多くの人にとっては、MSゴシックで組まれたWordでの組版で全然OKなわけで、気持ち悪い組版が蔓延するか、「Illustrator(InDesign)を使っただけでいい感じになる」か、の2つの選択を選ぶかだとしたら、後者の方がずっといい
追記2:
大石さんからコメントいただきました。このページの下の方にあります。
追記(2014年6月3日):
コメント欄、SNS、直接のご連絡などにて、いろいろなご意見をいただきました。ありがとうございます。なお、特定の方を責めたり、業種を軽んじたりする意図はまったくありません。
改めてまとめてみたいと思いますので、少しお時間いただければと思います。